本当の技術力とは単に手技のことじゃない
前回のコラムでひどい肩こりを取るにはニンゲンの身体を表裏という概念で診ると言いました。
表裏とはニンゲンの身体の深さです。そしてニンゲンの身体を筋骨などの解剖だけでなく陰陽のバランスや気血の流れる道筋と考えて処置します。
そうする事で筋骨のバランスや神経伝達などの捉え方では気づけなかった原因を見つけることができ、今まで取れなかったしんどい肩こりが解消するのです。
https://shin-wellness.com/blog/column/post-60/
このように、コリ物質のアプローチというのは単にテクニックに留まるものではありません。
ニンゲンの身体の捉え方、見方が核になります。この見方があるからこそ、コリ物質がアプローチできますし効果のあるアプローチが出来るのです。
これは多くの施術家が勘違いしているところだと思います。本当の技術とはやり方、所作を覚えるのではありません。人の身体をどれだけ深く、広く解明できるかなのです。そしてそれに適したやり方をチョイスできる事なのです。決して「このテクニックですべての症状が解決」と言ったテクニックはありません。それを本気で言っている人は本当には身体の事が解っていないのです。
あるクライアントさんの症例です
ミュージシャンのコンサートにトレーナーとして帯同していた時の事です。
あるツアーの最終日にて、そのクライアントは公演が終わるなり、意識が朦朧となり楽屋で倒れました。
3万〜4万人の観客の期待に応えるため多くのプレッシャーを一人で抱え、様々なトラブルに遭遇しながら長丁場のツアーを乗り越えました。そのため、最後にプッツリと緊張の糸が切れてしまったのでしょう。
足に力が入らないのでスタッフに抱えられながら楽屋に戻り、目眩が起こり意識が朦朧とした状態で立っていられない状態でした。
誰もが心配して見守る状態です。最終日なのでスタッフや出演者みんなで打ち上げを行う予定でしたが、本人は不在で打ち上げをやろうということになりました。
一緒に作り上げてくれたスタッフのために本人も打ち上げに参加したいと思っていたのですが、いかんせん身体が動かないので諦めて一人ホテルに戻りました。僕もそのケアのために一緒にホテルに戻りました。
みんなが打ち上げを行っている中、本人は静かに一人ホテルで施術を受けています。公演後のケアは日々のルーティンですし、さすがにこの状態じゃ施術よって元気百倍になって打ち上げに参加できるかもなど本人は思っていなかったと思います。
しかし最初は死んだようにうつ伏せになっていましたが、後半になると話す力が湧いてくるのが見て取れました。ポツポツと他愛のない事を話し始め、その声も徐々に力強くなってきました。
そして最後、起き上がったときには「あ〜〜っ」という爽快感の声とともに見事に復活しました。そして「元気出た!打ち上げ行こう!」とさっきまでの虚ろな状態が嘘のように張り切って打ち上げ会場に乗り込んでいったのです。
僕も参加させてもらいましたが、今までの長く大変だったツアーを乗り越えたという達成感を仲間達と爆発させる様に、さっきまでの状態が嘘みたいに楽しそうにはしゃいでいました。
そして楽しく打ち上げが終了しました。
良かったなぁと、久しぶりに仕事をやり切った感がありました。
この時、僕はコリ物質のアプローチという方法をほとんど使用しませんでした。
やったのは心地良く受けていられる気持の良いマッサージと、リラックスするリフレクソロジーやヘッドマッサージを施したのです。
これはクライアントの心身の状態がエネルギー枯渇状態の「虚」だったため、そのエネルギーを補完する手段としてそれらをチョイスしました。長いツアーで体力的なエネルギーと精神的なエネルギーを両方消費している中で精神力だけで繋いでいたのが、公演が終わったことによりその緊張の糸も切れた事により動くことができなくなったのです。
この時の手段としてはコリ物質のアプローチは必要ないと判断しました。その状態でエネルギーを補うのに最適なのはマッサージとリフレクソロジーだからです。しかしだからと言ってコリ物質のアプローチというテクニックは必要なかったかというとそうではありません。
コリ物質をアプローチするという観点から人の身体を見れたからこの判断が出来たのですし、結果体調が戻ってくれたのです。
コリ物質をアプローチするために大事なことは人の身体をどこまで深く診ることが出来るかです。そして施術中に変化していく様を随時感じ取りながら、その人それぞれに合わせて施術を変化させていける事なのです。決して理論理屈や手技に身体を当てはめるだけではありません。
つまりその人自身を読み解くことが身に付くのです。その中でコリ物質のアプローチが必要だと思えばそれを行うのです。もし他の手技(僕でしたらマッサージや鍼)が必要だと診断すれば他の手技の使うのです。そうすれば今まで出会ったことがない症状や状態にも対応できます。
その技術、理論に身体を当てはめるのではなく、その人の身体に様々な方法を当てはめることが出来る眼力が本当の技術力だと思います。
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