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下肢の陰経の使い方の一例 ~定期的な激しい頭痛と嘔吐 40代女性~

公開日: : 最終更新日:2020/01/27 施術者向け, 症例・お客様の声

前回のコラムで下肢の陰経の重要性をお伝えしました。

どんな症状の人にも施術の必要な箇所です。では実際にどのような考え方で使っているのかの一例を、症例を通じてお伝えしようと思います。以前のコラムでもお伝えした症例ですが、より詳細に施術カ所とその意味をお伝えします。

 

【症状】

6年くらい前から一カ月に一度の頻度で激しい頭痛が起こり、みぞおち辺りがムカムカして嘔吐する事が起こるようになりました。

 

【その他の症状】

初診となる日も2~3日前から発症して、当日朝に何度も嘔吐し、問診時にも嘔吐によりトイレに駆け込む状態でした。

また、他に見られた状態として
・お腹が空いていなくても食べたくなる
・食べると胸辺りで痞(つか)えた感じがする
・首肩のコリ
・夜は何度も起きてしまう
・便は2~3日に一回で硬かったり下痢っぽかったりする

ちなみに過去に病院で検査を受けていましたが異常が見つからず、定期的な健康診断でも特に異常な箇所はありませんでした。

発症すると仕事も休んだりと支障が出ていたのですが、病院では異常がないと言われてどうしたら良いのかと途方に暮れていらっしゃいました。

 

【診断】

この患者さんの症状は「熱邪」によって起こっていました。

中医学の見解では身体を悪くする原因のモノを「邪気」と言います。そのうちの熱いモノを「熱邪」と言います。つまり熱の性質を持った邪気=熱邪が身体の中に増大した時に、頭痛や嘔吐を引き起こしていたのです。

熱邪の見解が見られるその他の症状として
・お腹が空いていなくても食べたくなる
→胃に熱邪が存在しているため(胃熱と言います。)、その熱邪のせいで胃が混乱してしまい、通常の機能がマヒしている状態です。空腹感があって初めて食べたくなるのですが、胃熱のせいで胃の働きが亢進してしまっていて無駄に食べたくなるのです。これを中医学の用語では消穀善飢(しょうこくぜんき)と言います。

・食べると胸辺りで痞えた感じがする
→胃熱によって消化物がドロドロした物質になってしまい(湿熱)、ドロドロしているため胃から腸へ行く事が出来なくて胃で停滞しているために、食べると痞えた感じがするのです。

・首肩のコリ
→コリは様々な原因がありますが、熱邪でも起こります。熱邪の場合は全身を巡る気血も熱を持ってしまい、そのせいで気の流れが上方に(上半身)集まってしまい、気の渋滞が起こって首肩がコルのです。熱は熱い性質なので、炎の様に上に上がる性質があるからです。

・夜は何度も起きてしまう
→熱邪が身体にあるとリラックスできません。常にカッカしているイメージです。そのため、就寝時にリラックスできていなくて目が覚めてしまうのです。

・便秘。硬かったり下痢だったり
→熱が身体に存在するとその熱が身体の水分を奪います。それは便の水分も蒸発させてしまうのです。だから硬い便となって便秘になるのです。またこの方の場合熱邪のせいで身体の機能がおかしくなっているのは胃だけではありませんでした。大腸も働きが狂ってしまっています。そのため、時には便になる前のドロドロの状態で排便される事もあって下痢となっていたのです。

以上の事からもこの患者さんは、定期的に熱の邪気が身体に充満する事によって頭痛や嘔吐が起こっていると診断しました。

 

【施術方針】

方針は熱邪を取り除く事です。局所的に存在している熱邪を取り除く施術を行います。
しかし、それだけではその場限りの処置になってしまいます。また同じ症状が起こります。大事な事はこの方の熱邪が発生する状態の身体を根本的に変える事です。そのためにはこの患者さんに熱邪が存在する原因を知らなければなりません。

この方の熱邪がおこる原因は仕事によるストレス、気の張りでした。
この患者さんはフルタイムで働かれるキャリアウーマンでした。また管理職などの重要職についていて、様々なストレスや気の張りを産んでいました。それらによって気の巡りが停滞しその渋滞した気から熱が産まれていたのです。
気というエネルギーが一カ所に停滞し過ぎると、そこから熱が発生してしまうのです。自然発火みたいなものです。

以上の事から
・熱邪を取り払う局所の施術
・全身に気が巡る様にする
これらを施術方針としました。

 

【施術内容】

・熱邪を取り払う施術
熱邪が存在する局所=胃や肝臓とその周囲のみぞおちや肋骨の裏、頭部や後頭隆起(首と頭の付け根)、仙骨の上
これらの箇所にグミの様なコリだったり、板の様な硬いコリが存在しています。それらをアプローチします。熱邪は強い邪気なので硬いコリ感やグミの様な物質感として感じます。そこを的確に狙うのです。
名前のあるツボを狙うのではありません。目の前の患者さんの身体から触診して局所を狙うのです。その時に名前のあるツボではない場合もあります。しかしそれでいいのです。この名前のないツボを阿是穴(あぜけつ)と言います。
名前のあるツボはあくまで参考です。経絡上でしたらどこにでも邪気の停滞が起こる可能性があるのです。名前のあるツボばかり意識してもダメです。目の前の患者さんにしかないツボ(阿是穴)もある事を知ってください。
しかしこの場合も筋肉ではありません。筋肉の隙間や骨の周りを狙うのです。あくまでも経絡は筋腹にはありません。筋肉の隙間か骨の際にあるのですから。

・全身に気が巡るようにする施術
腿の半腱半膜様筋の裏側と下腿の脛骨内側の骨の縁。そして足首の関節から指先の骨の周囲
→ここには消化吸収を主る経絡や全身の気の巡りを調整する経絡が走っています。その経絡の流れを良くするためです。また、上半身に停滞している熱邪を下に降ろすという役目もあります。これもあくまで骨の周りを狙います。
上半身の症状でも下半身は見逃せない施術ポイントです。人間の身体は上下左右、前後ろと全てが繋がって成り立っています。それは筋肉という話だけではなく気の流れという意味でも同じです。
ですからこの様に全身の流れを大きな流れとして診る事によって施術効果が増大します。

 

【経過】

一度目の治療後には嘔吐や頭痛が無くなっていました。
一週間後に二度目の施術でしたが、この時からは体質改善として熱邪が溜まらない身体にする事を主眼として取り組みました。

一週間おきに4回、今までと同じようにみぞおち周辺の施術と、下肢の陰経のアプローチを初診から合計5回施術を行ったところ、体質改善が出来ました。これ以降は一カ月に一度のメンテナンスを行い、これまでの様な激しい頭痛や嘔吐が起こらなくなりました。

 

 

この様に、下半身に症状がない状態でも下肢の陰経は必要な場所となるのです。

 

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