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施術者が陥りやすい罠~結果が出ない施術者の気を付ける事~

公開日: : 最終更新日:2018/12/12 スクール セミナー, 施術者向け, 症例・お客様の声

先日、仕事でこのようなやり取りがありました。

 

~~~

日頃からメンテナンスで来院している患者さん(60代女性)から施術中に下記のお話がありました

「テニスをしている9歳の孫が踵が痛いと言っているです。それで病院で検査をしてもらったらレントゲンで踵の骨が剥がれてギザギザになっているんです。これってこちらでケアしたら痛みの予防ができますか?」

患者さんやそのお孫さんのお母さん(義理の娘さん)は診断名を聞いてませんでしたが、おそらく踵骨骨端症のようです。

 

僕「その骨のギザギザが無くなるという事はないですが、骨への負荷を減らしてあげれば踵の痛みもある程度改善した状態になると思いますよ。診断書があれば一緒に持ってきてください」

とお応えしました。そうして翌週、9歳のご本人と、付き添いにそのお母さんと患者さんもお見えになりました。

 

そこでのやり取り

患者さん「この子なんです。よろしくお願いします。」

お母さん「テニスをやった後、必ず踵が痛くなるんです。」

僕「(息子さんに)いつから痛いの?」

お母さん「一年位前からです。一向に良くならないんです。」

患者さん「筋肉の張りを減らしてあげれば踵の痛みは少しは落ち着くと思うんですよ。」

自分のお孫さん、息子さんという事でお二人はさぞかし心配のご様子。

 

お母さん「診断書はないですが、これが病院で撮ってもらったレントゲンです。医者からは成長期特有の症状だからとにかく安静にして体を休めてあげてとしか言われていません。その後にマッサージや機械の治療を色々な所で受けさせたんですが一向に変わりません」

レントゲン写真を見せてもらうと確かに踵骨がギザギザになっていました。

 

お母さん「今は練習回数も減らしています。でもやはり痛みは変わりません。」

僕「(息子さんに)練習の後だけなの?痛いのは」

お母さん「そうです。痛みを訴えるのはテニスの後だけです。」

 

 

・・・・

と、ここで一旦時間を進めます。一週間後の話です。

お子さんは初診も合わせて3回治療しました。それによってテニスをした後の痛みはなくなりました。

今回の治療のポイントは前脛骨筋の慢性的な疲労と回復不全のための張りでした。前脛骨筋の張りを取ることによって主訴である「前脛部の痛み」がなくなりました。

 

???

今まで読んでいた方は「前脛部?」と思われたと思います。主訴は踵の痛みのはずです。途中から主訴が変わったのでしょうか?そうではありません。最初から前脛部が痛かったのです。

ではまた初診の問診の続きに時間を戻します。

 

・・・・

お母さんからテニスの後だけ痛みが出ると聞いた後、僕は息子さんの前に改めて立って

僕「どこが痛いの?」と息子さんに聞きました。

息子さん「ここ」と言って前脛部を指さしたのです。

 

患者さんとお母さん「???」「踵が痛いんじゃないの!?」と戸惑いの声

息子さん「ううん(首を横に振って)。ここ(前脛部)」

お母さん「えっ、そうなんだ!!」

 

そうなんです。実は痛みがあったのは前脛部だったのです。それをお母さんたちは踵と今まで勘違いしていたのです。

 

僕「お母さん、今までマッサージ等の治療を依頼する時に踵の事だけじゃなくてスネの痛みは知らせていましたか?」

お母さん「いいえ、私も初めて聞きました。だから今までの人達は知らないと思います。」

 

その後、改めて診た上で

僕「踵の骨の状態はこのスネの痛みにはほぼ関係ないです。膝から下の筋肉をほぐせば治ります。」

 

 

このような展開が初診時起こったのでした。病院の先生はわかりませんが、おそらくマッサージなどを請け負った施術者達は誰も本当の主訴を知らなかったと思います。そして誰も前脛部にフォーカスしなかったと思います。みんな踵の痛みと親から言われた事と病院での画像診断を鵜呑みにして踵の痛みと思い込んでいたと思います。

 

どうしてこの様な事が起こったのでしょうか?

まず一つ目は病院のドクターの診断ミスです。もしかしたらドクターは前脛骨筋の痛みを聞いていたのかもしれませんが、彼らは画像や数値が絶対です。今どきのドクターは触診などしませんし重要視しないドクターがほとんどだと思います。

レントゲンで踵骨骨端症が見られたので、これのせいだと決めつけたのです。そしてお母さんには踵骨のレントゲンを見せて踵が痛くなる状態だと説明します。それによって様々な所にも痛みが出るのだと説明します。その時点では既に前脛骨筋の痛みの訴えはどうでもよくなっています。これによってお母さんは「踵が痛いのだ」と誤解してしまったのです。もしかしたら前脛部の痛みはお母さんも聞いていたかもしれません。しかし、「踵の骨」とドクターから言われたので、踵の痛みが刷り込まれてしまったのです。

これはよくある事です。画像や数値を頼りにしているドクターではしょうがないところです。(本来はしょうがないわけないですが)

 

 

二つ目。これが一番の問題です。

お母さんが様々な治療を受けさせましたが、そこでの施術者達が「本人からちゃんと話を聞くことなく、お母さんの踵が痛いという誤った話しやレントゲン画像だけを基に」治療したことです。この勝手な思い込みが一番の問題です。ちゃんと主訴を理解すれば簡単な症状でした。つまり施術者の「思い込みによる診断ミス」です。

 

「お母さんが踵が痛いと訴えたのだから、勘違いしてもしょうがないじゃないか」という方もいるかもしれません。しかしその考えは甘いです。患者さんはお母さんではありません。そこに本人との認識のズレ、間違いがある可能性があります。それを考慮して常に正しい情報を知ろうという姿勢が施術者にはなければならないのです。

 

初診時もお母さんが状況や痛みを事細かく説明してくれました。でも僕はお子さんから直接話しを聞きたいと思い、お子さんと向き合って話しかけました。もちろんお子さんからも「踵が痛い」と答えが返ってくるかもしれません。実際その確率の方が高いでしょう。

しかし少しの可能性でもある限り、僕たちは「だろう判断」は絶対してはいけないのです。

 

 

今回は子供相手という特殊な状況でした。しかしだろう判断の施術は普段から多く見られます。特に経験や知識がある方はその傾向があります。今までの経験や知識があるだけに相手の状態を徹底的に調べずに勝手に症状を決めつけてしまうのです。それによって本来なら治るものも治らないのです。

 

 

最後に、知識やテクニックをたくさん知っている人が素晴らしい施術者ではありません。もちろんそれらを知っているに越したことはありません。しかし、本当に人の体を良く出来る施術者というのは、考える力や徹底力が秀でた人です。

 

僕たちの仕事は工場の機械の様にマニュアルがあるルーティン作業ではありません。言われた事、本に書いてある事をやっているだけの方は次の言葉を心に刻んでください。人を施術するという事は終わりのない考察を続けるという何とも難しい事なのです。

 

 

 

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